2009年5月29日金曜日

NGOやマイクロクレジットとMNCsの補完関係

先日皆さんとも共有した内容を備忘録を兼ねて。

マイクロクレジット → 貧困の底上げに有効
MNCs → 例えば工場を立てて雇用を確保するといった大規模な経済活動
BOPの経済発展においては両者はお互いに補完関係にあると考えられます。

以下、例をいくつか。

○グラミン・ダノンのケース (「貧困のない世界を創る」から)
ダノンから、
1.バングラという市場にあう商品開発 (ノウハウや人材を送りこんで実施)
2.地方に立てる工場の設計~稼働、工場での雇用
グラミン銀行から、
3.マイクロクレジットを借りてヨーグルトを配達する女性起業家を確保、教育、支援

○グラミン・フォンのケース(「グラミンフォンという奇跡」から)
グラミンフォンから(主にテレノール)
1.携帯通信事業に関わる技術的な知識、ノウハウ
2.大規模なネットワークを構築する為の資金
グラミンテレコムから
3.回線をまとめて借りて、利益0でテレフォンレディーに小分けして販売
グラミン銀行から
4.マイクロクレジットをテレフォンレディーに提供

営利企業だけ、もしくはNGOだけでビジネスモデル全体をカバー出来れば良いのでしょうが、実際には難しい。そこでそれぞれ自分の得意な部分を担って分業する。別の言い方をすると、BOP市場にフィットするビジネスモデルはきっとこの様に単独で実現出来るものではないので、「分業」+「合わせ技」が必要になる。
このモデルが上手く回ると営利性と社会性が両立する、という事なのでしょう。

『グラミンフォンという奇跡』

「つながり」から始まるグローバル経済の大転換

著者はジャーナリストという事もあり、内容はとてもわくわくしながら楽しく読むことが出来る。しかし単にある事業の成功物語という楽しみ方の他に、貧困をなくすために営利企業が果たす役割は何か?またBOP(Base of the economic pyramid)と呼ばれる市場で営利企業が事業を成功させる為には何が成功要因となるのか?という疑問に大きな示唆を与えてくれる本である。

グラミンフォンという名前から、グラミングループが主体となっている携帯電話事業者の印象を受けるが、実際にはイクバル・カディーア氏というバングラデシュの起業家がグラミン銀行や北欧の携帯電話会社(テレノール)、日本の商社(丸紅)等を資本家として巻き込み実現させた電話会社である。
携帯電話事業には大きな2つのハードルがある。まずそもそもライセンスを獲得し、ネットワークのインフラを構築し、携帯電話事業そのものを始める事。次に携帯電話をその地域に暮らす人達にたくさん利用してもらう事、である。

最初のハードルはイクバル・カディーア氏が奔走して北欧の携帯電話会社(技術)や資本家(資金)を集め、バングラデシュ全国に携帯電話網を広げる計画を立て、政府から事業ライセンスを獲得し、克服した。
次のハードルは、グラミン銀行のマイクロクレジットと組み合わせてテレフォンレディーと呼ばれる地方の女性起業家を育成し、電話の利用者を広げていった。途中国有の固定通信事業者との接続回線を確保出来ないという危機もあったが、携帯電話間しか通話出来ない、しかし価格が安いというサービスを考案する。当時固定電話があまり普及していなかったバングラデシュでは、固定電話と繋がる事よりも安い事が支持され、サービス利用者を増やしていった。日本や欧米のような、電話がある、繋がる事が当たり前の国では想像も出来ない事業のやり方である。電話の利用が拡大するにつれ、テレフォンレディーの収入が増え、電話を利用する人々の生産性も上がり地域の経済が改善されていく。

なおこの本ではグラミンフォン以外の、インドのビレッジフォンやアンテナ屋の他、アフリカ、フィリピン等の事例も紹介されている。
ある事業の成功物語として楽しみたい人の他、特に発展途上国の貧困解消や、その為に営利企業やインフラが果たす役割、その実現方法について知りたい人には非常に参考になる本であろう。

デフタ・パートナーズ グループ会長 原丈人氏講演 「これからの日本と世界」

フルブライト公開講演
日時: 2009年5月27日(水) 18:40 ~ 19:40
場所: ホテルニューオータニ

講演要旨

アライアンスフォーラムやデフタパートナーズの活動を紹介しながら、ポスト・コンピューター時代の技術育成や公益資本主義が必要である。
  • IT産業は既に成熟段階に入っているので、次の時代を支える新しい産業が望まれる事、その産業の根幹をなす新しい技術を育成していく必要がある。
  • また、貧困、飢餓、病気等の社会問題を解決する為には政府や国際社会の援助だけではなく、企業活動も活用して解決していく事、つまり公益資本主義のアプローチが必要。
具体的な活動例として、bracNet(バングラデシュ), スピルリナ(タンパク質を豊富に含んだ藻)生産等が紹介された。


雑感

これまで何十年もかけて行われたODA等の援助が貧困解消の全ての手段ではなく、営利企業による事業活動を通じての貧困解決も極めて有効という主張には同感である。
bracNetのケースでは、共同出資者であるBRAC(NGO)は納税が不要でその分利益を公共事業に回す事が出来る、という利点が強調されていた。納税しても税金がきちんと利用されれば同様の効果は期待出来るのであろうが、要はどれだけ社会問題の解決に効果的に使えるのか、という事であろう。

2009年5月28日木曜日

経産省、ビジネスで貧困層支援−ニーズ把握、ODA活用も

続けざまに経産省の話題ですが、研究会を発足し年度末に報告書を出すようです。JICA、JETRO、商社、有識者を巻き込んでのプロジェクト。

政府の「開発援助」としてはODAが大きな存在としてあります。
そのお金を使って日本企業が最貧国に進出するという今までと同じスキームではない、新たなモデルを官民共同でやっていけるのであれば、意味のある取り組みになるのではないでしょうか。

経産省、ビジネスで貧困層支援−ニーズ把握、ODA活用も
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1320090522aaad.html

官民連携によるBOPビジネスの展開について

経済産業省貿易経済協力局通商金融・経済協力課からのレポート

BOPビジネスの概要と日本企業におけるBOPへの取り組みについてまとめられている。
日本企業は諸外国の企業に比べて同分野への取り組みが遅れていると言われているがその理由を以下の様にまとめている。

(1)BOPビジネスのコストと不確実性
(2)企業のハイエンド志向
(3)本業とCSR活動の分断
(4)開発援助機関の対応の遅れ
(5)NGOと企業の連携の弱さ

企業の経営戦略上の問題ももちろんあるのだが、それだけではなく政府、援助機関、NGOなどのプレーヤーとの関わり方にも問題があるようだ。

レポートでは今後の施策の方向性として、以下2点を挙げている。
BOPビジネスの概念の普及と意識の醸成
BOPビジネス支援策の検討

最後に「経済産業省としても、BOPビジネスに関する議論を盛り上げ、施策を展開していくこととしている。」とレポートは締めくくっている。企業に「経営者」を供給するビジネススクールとしては、日本におけるBOPビジネスの議論を深化させる後押しを出来ればと思う。

http://www.nexi.go.jp/service/sv_m-tokusyu/sv_m_tokusyu_0905-2.html
更に詳細なレポート
http://www.ecfa.or.jp/japanese/20090522_bopmeti.doc

2009年5月27日水曜日

"Making better investments at the base of the pyramid" BOP venturesの成功要件・パフォーマンス指標

"Making better investments at the base of the pyramid"
Harvard Business Review, May 09

http://hbr.harvardbusiness.org/2009/05/making-better-investments-at-the-base-of-the-pyramid/es

●本論の要点:BOP事業のパフォーマンスを単に金銭的測定指標だけに依存しては望ましくない。“complete picture”をつかむことが肝要である。以下、そのためのフレームワーク。

●Local stakeholders特に、sellers (販売従事者。多くの場合、現地の個人起業家)、buyers (現地顧客)、communities (sellersやbuyersが属するコミュニティ)3主体が、以下の3点でいかなるimpact(プラス・マイナス両方)を受けるかを把握することが重要

1)Economics(経済的インパクト:収入増加度、収入の安定度、他の就業機会を失う機会費用)
2)Capabilities(スキル・ナレッジ・心理状態:コミュニケーションスキル、マネジメントスキル、自己効力感、満足感、自尊心)
3)Relationships(人間関係へのインパクト:家庭内における地位の変化、家族関係の緊張度、コミュニティ内の人間関係変化)

本論を読んでの感想だが、これらの3×3のマトリクスによるBOPベンチャーの評価は、文中でも言われるとおり、事業開始前や、遂行中に確認し、ビジネスモデルの最適化、柔軟な修正を行うために利用されることが重要であり、必ずしも事業成果を事後評価するためだけのものではないと感じる。

また、BOPベンチャー(事業)への資金提供者が、営利主体か非営利主体かによっても成果尺度の選定は影響されるだろう。本ブログでは営利事業者・投資家の視点を基本に置くので、その文脈で本論のフレームワークをとらえた場合、営利事業者にとっての経済的成果を最大化するために必要な、多元的評価指標、ビジネスモデル構築の際のチェック項目として解釈するのが妥当ではないかと思う。

付言すれば、すでに開始されたBOP事業のコンサルテーションや、その時点での事業評価・点検を行う際のスキームとして、優れていると思われる。

2009年5月26日火曜日

NextBillion.net

Next Billionは直訳すると「次の10億」ということになるが、Base of the Pyramidの10億を指している。

2005年5月に世界資源研究所(World Resource Institute: WRI)が主体となって設立された。BoPに関するニュースやレポート、求人情報などが発信されており、BoP関係の情報のほとんどは手に入る。

2008年4月からはAcumen Fundと共同保有・運営をという形態をとっている。

NextBillion.net Development through Enterprise

『未来をつくる資本主義: 世界の難問をビジネスは解決できるか』

プラハラッドの『ネクストマーケット』と並ぶBoPビジネスを理解するための必読書。
今まで65億の地球人口のうち上層の20億人たらずの貨幣経済と言う限られた領域で企業活動やグローバル経済は語られてきたが、忘れ去られた40 億人にフォーカスした企業活動が今後は必要になるのは火を見るよりも明らかである。具体的事例を交えて先進的な多国籍企業やNGOの事例を使って、BoP における組織、マーケティング、戦略と幅広いトピックについて分かりやすく説明している。

また、「CSR」との関係について、「ビジネス戦略を通じて与えたダメージを取り繕う目的で慈善事業に依存する社会的責任 (CSR)とは根本的に異なる」とある。BoP戦略はCSRの概念とは異なることを明確に示しており、持続的成長のためのステップの一つとしてCSRと BOPを別々に語っている点は分かりやすい。

『貧困のない世界を創る』

経済のグローバル化、市場の自由化は素晴らしいことである。金融技術、情報技術などの発達もあって、我々の生活は過去50年で大きく改善している。しかし ながら、それは地球上の極限られたわずかな人々の話であり、世界の人口の半分は一日当り2ドル以下での生活を強いられている。本書ではこの不合理がなぜ起 きているのか、それをどのように改善すべきかを自身の経験に裏付けられた信念、理論で語られている。

曰く、今までの経済学では「人間をただお金だけを動機、満足、幸福の唯一の源とする一次元的な生き物だという前提」があり、資本主義のシステムも 利益を最大化することを目的とした企業を前提に作られている。しかしながら我々は寄付をするなどして困っている人を助けたりするし、人のためになることに 喜びを感じる。また最近では企業の社会的責任が注目を集めるなど、人間は必ずしもお金、利益だけを目的として生きている訳ではない。

経済的な利益と社会的な利益は究極的には両立出来ないというのが氏の主張で、社会的な利益を追求するソーシャルビジネスという新しいモデル、システムを提唱している。


2009年5月25日月曜日

本ブログについて

「包括的ビジネス・BOPビジネス」戦略研究フォーラム(任意団体)
(英語名:Inclusive Business Strategy Research Forum)
設立趣意書

■ミッションと研究領域
 本フォーラムは、企業経営の視点から「BOP(the base of the pyramid)」市場をとらえ、企業がいわゆる「慈善的課外活動」ではなく、そのコア事業(本業)を通じて営利性と地球規模の社会的問題解決が両立し得る条件を研究する。その際、情報通信技術の有用性について、特に関心を持って考察する。

■問題意識と活動内容
  南アジア・アフリカを中心とする貧困(世界人口の収入ピラミッドにおいて年収3000ドル以下の40億人が世界人口の7割弱を占める)の解消 (alleviation of poverty)においては、国連機関や各国の政府開発援助(ODA)、現地政府の経済政策、そして様々なNGO/NPO活動が長らく中心的役割を果たしてきた。しかし、貧困解消事業の持続性・拡張性をさらに高めるためには、新たな方法の探索が求められている。
 本フォーラムが持つ仮説は、「企業の経済的価値最大化を前提として発展してきた経営諸学の知見と情報通信技術を活用した営利の企業活動を通じて、貧困をはじめとする世界規模の社会問題解決に対し、既存の方法論に加えて効果的な方法論を提供することができる」というものである。
 特に近年の情報通信技術(ICT)の発展は、これまで高コスト構造が壁となっていた「BOP」市場への参入障壁を著しく下げる役割を果たすことが考えられ、ICTの活用を念頭に、その効果を最大化する諸条件についても重要な研究イシューとする。
 こ の仮説を検証するため、本フォーラムでは経営諸学研究者のみならず、実際に「BOP」市場で活動する(もしくは活動を計画中の)企業、開発経済学分野の研究者、情報通信技術の研究者、実際に開発事業に携わるNGO等とのコラボレーションも図りながら、「BOP」市場における企業活動を成功裏に促進させる諸条件を探索する。

■組織
 当面は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科岡田研究室を本フォーラムの設立主体とし、オープンな研究活動を行う。将来的には、大規模外部資金の導入、メンバーシップ(研究者・企業)の設定により、さらに研究活動を発展させていく予定である。

■設立発起人
岡田正大(おかだまさひろ 慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授)
尾形英之(おがたひでゆき 慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士課程)
栗原雄輝(くりはらゆうき 慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士課程)