2010年1月29日金曜日

モバイルバンキングがいよいよ現実的に。金融と通信セクターの協働を中央銀行総裁が呼びかけ(バングラデシュ)。

同国では、いわゆるブリック&モルタル(「レンガモルタル造り」の物理的)店舗網では採算が取れず、銀行サービスの人口カバレッジがなかなか上がってこなかった。

その一方で、携帯電話サービスの成長には目をみはるばかりである。同国中央銀行(Bangladesh Bank: BB)総裁のRahman氏は26日、今こそ金融サービスセクターと通信サービスセクターの協働する余地が大いにあると指摘した。'Expanding Financial Services with New Technology'という会合で述べた。この会合はDepartment for International Development (DFID) と Consultative Group to Assist the Poor (CGAP)が共同開催したもの。

Rahman氏は、「すでにわが国には6社の携帯キャリアがあり、5300万人の携帯ユーザーを有している。これは全国土をカバーしている。このまま携帯の普及が順調に進めば、携帯キャリアには、正式にライセンスを受けて規制の下に置かれた(透明性の高い)金融サービス企業とパートナーになる豊かな事業機会がある。」「文化の同質性、高い人口密度という特性から、我が国にはモバイルバンキングを普及させる素地が整っている。」

とはいえ、物理的店舗の便益もこれまで通り重要なので、両者は補完関係にあるということも指摘している。過去数10年にわたって、やるやるといってできなかったことがいよいよ可能となり、これまで金融サービスの外に置かれていたセグメントへのアクセスが可能になる、と同氏。モバイルバンキングネットワークの拡充により、2020年までに銀行サービスが全世帯をカバーできるようにする計画を立てるべきだと主張した。

Rahman氏が想定するネットバンキングの用途は、
1)銀行からの融資と返済事務の簡便化・効率化
2)高齢者の年金受取り
3)農村部の企業や土地持ち農家への融資提供機会
4)紙幣の発行・印刷の手間が省ける
5)国内での様々な送金・決済需要(都市部での電気・ガス・水道代支払、学費納入、国内出稼ぎ者の自宅送金など)


<コメント>
IDシステムの普及やモバイルネットワークの急拡大に伴い、全国的なマイクロ決済インフラを成立させる条件が整ってきている。ドコモ(Aktel)やKDDI(bracNet)に動きがあるかもしれない。

米国の配送サービス大手DHLがバングラデシュ市場へ$10M投資、輸送事業強化

DHLは、バングラデシュのローカル配送会社であるTrade Clippers Cargoと共同出資で、ダッカに合弁会社、DHL Global Forwarding Bangladesh社を設立する。主たるターゲットは法人で、繊維・衣料産業へ輸送サービスを提供する。DHLの持つグローバルネットワークを活用する。DHLはバングラデシュですでに25年の事業経験を持つ。南アジアにおける繊維・衣料産業向け輸送サービス市場は、約$3.9B(約3900億円)と見積もられている。


首都ダッカに100の簡易トイレを設置

公称人口1200万、非公式には人口2000万といわれるダッカ。そこに公衆トイレは48しかない。そこで問題視されているのが、屋外での排尿排便問題である。中には歩くことが困難な道もあるといい、深刻な衛生問題を引き起こしている。

このたびダッカ市が設置したのは簡易トイレで、三輪バンでけん引して移動が可能。有料で、排尿は1回2タカ(約3円)、排便は1回5タカ(7-8円)徴収される。朝8時から夜8時までの12時間使用可能。

簡易トイレの壁には、公共の道路を公共のトイレとして使わないように、というポスターが掲示されている。


<コメント>
できればダッカ市内のスラム周辺には無料で置いてほしいものだ。

バングラデシュ政府が国民にIDカード発行

昨年10月のエントリーで、BOPにおけるIDシステムが金融・決済をはじめとする様々なサービスの普及に重要な役割を果たすだろう、と指摘した。

今月開かれているインド選挙管理委員会主催の国際会議で、バングラデシュ政府の選挙管理委員会コミッショナーShamsul Huda氏が語ったところによると、同国は2008年の議会選挙時に選挙権のある8100万人の国民が登録した情報に基づいて、国レベルのIDカードを作成・配布することを決めた。選挙プロセスの電子化と公平性を担保するためだという。

ひとつ問題があり、それは生年月日情報の不正確さである。同国では、病院で出産が行われることはまれで、自宅で自然分娩されるケースが多いことから記録が残らず、同一人物が複数の生年月日を持つことがよくあるという。

このIDカードだが、事実上同国の成年男女をカバーしており、まさに米国でSSNが果たしているような様々な個人特定の機能に活用可能であろう。金融や決済、様々なサービスのインフラが徐々に整いつつある。



2010年1月28日木曜日

バングラデシュの冷凍エビ産業:欧州への輸出を再開

同国の冷凍海産物産業は(frozen seafood)、衣料に次ぐ輸出品目の柱である。産出額全体は毎年$11B(約1兆円)にのぼり、うち70%($7.7B)が輸出されている。

2008-9財務年度の冷凍エビの輸出量は前年比5%増加したが、金額ベースでは世界景気悪化による価格下落のため、前年比15%減、$454Mにとどまった(前年度$534M)。

今回の輸出自主規制は、欧州の輸入業者が2009年5月、欧州向け冷凍エビの中から、ニトロフラン系抗生物質を検出したからである。同薬品は欧州市場では使用が禁じられているため、薬品を含まないエビが養殖場で準備できるまで、業界団体が自主規制をしていた。

「ボトム」でなく「ベース」

いったんメジャーなメディアが「ボトム オブ ピラミッド」とやってしまうと、それがそのまま伝播してしまう例:

日本の大手食品・日用品メーカーが、世界を視野に入れた「世界ブランド」に経営資源を集中させ始めている――という記事が、日本経済新聞で大きく紹介された(2009年12月20日付け朝刊)。、、、(中略) 『BOP』(ボトム・オブ・ピラミッド)ビジネスと呼ばれ、主に欧米の大手企業で注目されている。」(ダイヤモンドオンライン 2010年1月28日)

新聞記事での注釈が盲目的に、そのまま次のメディアでコピーされ、広がっていってしまう。

インドのメディアではまだ半々くらいの印象だが、実際のところ、現地へ行ってその国の人々(例えばNGO)と対面で議論した際には、ボトムであれベースであれ、BOPという言葉自体ほとんど使える雰囲気ではなかった(少なくとも私の場合)。those who are economically challengedとか、relatively poorer peopleといった言葉をずっと使っていた記憶がある。

2010年1月26日火曜日

携帯電話通信事業のBOP市場における成功要因

私も、先日慶応ビジネススクールで行った修士論文発表会の資料をアップします。

「携帯電話通信事業のBOP市場における成功要因」という研究テーマに取り組みました。
携帯電話はここ5~6年の間にBOPでも急速に普及が進み、経済活動を活性化しGDPを押し上げるといった経済効果が観察されています。
私自身は派遣元企業の電気メーカーで、通信インフラを構築するプロジェクトにこれまで携わってきました。過去、ある発展途上国の農村に初めて電話が開通した際(当時は固定電話でしたが)、それまで急病人が出て救われなかった命が、電話のおかげで救急ヘリ・救急車を呼び救えるようになったという話を聞き、これが社会インフラの世の中への貢献なのだと強く感じました。その様な背景もあり、BOP市場において事業者が携帯電話を普及させ、事業を成功させるには何が必要か?というテーマを設定しています。

サンプルを分析した結果、多国籍通信事業者と現地企業・NGOの両方が資本参加する場合には企業のパフォーマンスが2極化している事が分かりました。多国籍通信事業者に期待されるリソース(技術力、資金力、人材、マネジメントノウハウ等)、現地企業・NGOに期待されるリソース(現地の状況に関する理解、ネットワーク等)を上手く融合させられた場合とそうでない場合ではパフォーマンスに大きな差が出る、つまり両者の提携の重要さや困難さが表れたと考えられます。
その他、早い参入タイミングや現地起業家の流通チャネル参加がパフォーマンスを向上させている事も確認されました。

公開情報が少ない為サンプルの標本数も限られているという状況での研究でしたが、ゼミでの恩師による指導、多くの方々の助言、またインタビュー・調査にご協力いただいた方々のおかげでここまでたどり着くことが出来ました。ありがとうございました。

慶応ビジネススクールは3月に修了予定で、その後は派遣元企業に戻ります。4月からはビジネスの現場から、発信できればと思います。

2010年1月25日月曜日

バングラデシュ政府の目標:2021年までに貧困率を15%に

ダッカで開催中のアジア太平洋総合農村開発センター(CIRDAP)の大臣級会合で、同国地方自治相(Local Government Minister)のIslam氏が述べた。「農業セクター特に、地方部の開発にCIRDAPが重要な役割を果たすことを望む」と同氏。

現在バングラデシュでは、国際的貧困ラインとされる一日当たり$125以下で生活する人々が、総人口1億5千万人の人のうち45-50%を占めるとされる。

注)CIRDAPとは、アジア太平洋14ヶ国の政府間組織で、農業セクターの開発・発展に共同で取り組むことを目的に1979年に設立された。詳細は同組織ウェブサイト参照。

2010年1月22日金曜日

Microfinance - Does it really work?

もしもマイクロファイナンスによる少額融資が既存の零細事業の維持やわずかな増収、日々のキャッシュショートを乗り切るための短期資金で終わってしまっては、貧困の悪化を食い止めることにはなっても、脱出はできないかもしれない。

では何が必要なのか。それはやはり「資本蓄積」である。 それにより、拡張性のある事業モデル(拡大再生産によって収穫逓増や規模の経済が成立するモデル)が成立し、所得増加がより構造的かつ大規模に図られる。ここに企業の役割もあると考えられる。BRACが様々な包括的活動で貧困層の人々の「人間開発」に注力したり、各種の事業を起こすのも、資本蓄積のための活動に他ならない。 マイクロファイナンスを資本蓄積プロセスの中でいかに役立てるかを考える必要があるだろう。



このニュース映像(インドのジャーナリストが創業したノンフィクション専門プロダクションbroken pot creative制作)は、マイクロファイナンスの問題を以下のように指摘する。

1.すべてのMFIが効率的に運営されているわけではない。監査も十分になされていないケースがある。
2.利息が高い(高いものでは28%)。無論local money lendersはその5倍をチャージするので、それよりは安いが、それでも高率である。(あるMFIが説明する利息の内訳:商業銀行からの調達金利13%、融資活動のコスト7-8%、MFI自身の利益分が残り)
3.生活の支援にはなるが、貧困からの脱出には調達資金を何に投資し、リターンを得るかというスキルと能力、支援体制が必要で、MFそのものだけでは不十分
4.インド政府が認めているSelf Help Groupを組めば、複数の住民が共同で一つの口座を商業銀行で開き、最高8000ドルまで融資も受けられる。利息は10%だが、政府からの金利補助が7%あって実質3%である。

そしてこのビデオの最後に、気になるコメントがある。「マイクロファイナンスを利用する人々も、もしも工場勤務の機会があれば、喜んでそれを選ぶ。それなりの職と給与を提供することは、MFによる貧困脱出の有力な代替手段である。」

この考えは、まさに以前のエントリーで指摘した問題意識そのものである。

つまり、マイクロファイナンスが貧困の解消に役立つためには、その融資がfuelするビジネスそのものの中身が経済的価値を生み出す力の強い、拡大再生産を可能にする事業であることが望ましい。無論ビデオでMFIの創設者が言うように、MFで雑貨店の仕入れ量をふやしたり、飼育する牛の頭数を増やしたりすることはできるかもしれない。しかし、そうした零細事業を飛躍的に大きくするには、より大規模な資金と技術、経営能力が必要になる。

一つの方法はMFの一つ上のレイヤーの金額、1万ドル単位の投資を可能にする資金調達チャネルを実現し、村民自身が起業家としてより大きな規模の事業経営を目指すことである。しかしこの場合も、相当に高度な事業運営能力・スキル・適切な教育水準が必要とされる。たとえば、現在バングラデシュでは日本の人的援助を受けながら農業の大規模農園化プロジェクトが進行中という。こうした大規模化ノウハウが現地に根付けば、このレベルの投資が成功する可能性がある。NGOや国際援助機関、そして企業が事業設計を支援する機会がここにあり、様々な取り組みがすでになされている。

いま一つの方法は、農村部への大量生産工場設置とそこから生まれる製品の販売チャネル構築をワンセットで行うことだ。この場合、工場設置という大規模投資は多国籍企業や地元企業が行い、企業側に不足している販売チャネルはMFによって小口仕入れをする販売員を募って育成する。雇用は工場勤務と販売員双方で生まれる。グラミンダノンはこれに近い。 
 
上記モデルの前段階として、他国で生産された生活改善製品の貸出業(たとえばソーラーランタンなど)をMFベースの個人事業家に委託することができるだろう。事業規模の拡大に応じて生産工場を現地に設置する、ということになる。

また、単純な生産工場建設による利益と貧困解消の両立も、引き続き有力なcontenderのひとつとして検討対象にしていく。

なお、下記のサイトにはマイクロファイナンスに関する動画が一堂に集められている。

バングラデシュの経済成長率予測

世界銀行によるGlobal Economic Prospects (GEP) 2010のレポートによると、バングラデシュの経済成長率は以下のように予測されている。2008年が6.2%であったから、2010年へ向けて成長率は鈍化し、2011年から若干回復していくという予測だ。
2009年 5.9%
2010年 5.5%
2011年 5.8%
バングラデシュのMuhith財務相は「こうした予測は受け入れられない」と述べた。政府はこれまで6%を成長目標として掲げてきている。
一方在ダッカの研究組織Centre for Policy DialogueのRahman氏によれば、2009年7月以降のトレンドで行けば、5.5-6.0%の予想は妥当な線だ、と指摘している。

2010年1月21日木曜日

マイクロファイナンスの成否:バブルか産みの苦しみか

少々遅ればせながら、2009年後半に起こったマイクロファイナンスに関する論争をレビューしておく。

<主な論文・記事>

2009年6月 Roodman & Morduch "The Impact of Microcredit on the Poor in Bangladesh: Revisiting the Evidence" が発表される。「マイクロクレジットは、不況期の支払いを支え、家計からの支払いキャッシュを平準化させる効果はあるが、貧困から脱出できるという効果は認められない」

2009年8月13日 Wall Street Journalの報道 "A Global Surge in Tiny Loans Spurs Credit Bubble in a Slum"
「インドの地方都市RAMANAGARAMでは深刻な多重債務問題が生じている。世界のマイクロクレジット業界は社会的問題解決から利益創出に目的がシフトし、大量のプライベートイクイティが流入してバブル状況。貸し倒れリスクが高まっている。」

2009年8月14日 インドのMFI Ujjivanが自社ホームページに反論を掲載
「WSJが指摘する問題事例はプライベートイクイティにもMFIの利益創出動機にも無関係の個人的背景による事例で、この事例をしてMFI全体が構造的な問題を抱えているとはいえない。」

2009年8月18日 グラミンを超える規模に成長したMFI SKSの創業者Vikram Akulaがブログで反論
「たった一つの町のたった一つの事例でMFが世界的にバブルだという一般化はあまりに馬鹿げている。SKSの返済率は99%で安全性の格付けで最高レベルである。」

「たしかにインド南部の一部では過重債務のケースが発生しているが、記事はそうした問題がどのように対処され、解決されていっているか(国や州レベルで債務解消のベストプラクティスを共有したり、MFIsを一元的規制の下に置くことなど)が全く触れられていない。今、MFは産みの苦しみを味わっているのかもしれない。貧困解消指数の積極的活用で、MFIのミッションが果たされていることを証明する支援を今後も続ける。」

上記すべて記事の大意。詳細は原典に当たっていただきたい。

BoPにおける企業戦略 -経済的価値と社会的価値の両立を目指して-

先週慶應ビジネススクールで行われた修士論文発表会で使用したプレゼンテーションファイルをアップしました。

仮説導出型の論文で、導出された仮説は「破壊的イノベーションが社会的価値を創出する時、企業の競争優位を増し、企業パフォーマンスは向上する」というものでした。先進国市場で言われる破壊的イノベーションに加えて、社会的価値という要素がBoPで成功するためには必要になってきます。論文の範囲からはそれますが、破壊的イノベーションは持続的なイノベーションを代替するものになりますが、大きな視点で言えばその部分もBoPに当てはまるのではないかと思っています。BoPでのイノベーション、事業活動は先進国市場などBoP以外でも通用するものが多く、企業の競争優位に繋がるのではないでしょうか。

限られた時間と事例をもとにしたもので「論文」としての完成度はまだまだですが、本研究を通じて企業戦略の新たな側面について考えるきっかけになっただけではなく、色々な人と知り合うことが出来ました。この場を借りてインタビューに応じて下さった関係者の皆様には感謝の意を表したいと思います。

BoPについて日本のビジネススクールにおける教育はまだ始まったばかりですが、当日の発表会には多くの学生の皆さんに参加して頂き、関心の高まりを肌で感じることが出来ました。今後、慶應ビジネススクールにおいてもBoPをテーマに研究をする学生が出てくることを期待します。私も学校を出てビジネス側から日本発、日本オリジナルのBoPにおける企業戦略に携わることが出来る様にがんばって行きたいと思っています。

2010年1月20日水曜日

「ボトム」でなく「ベース」で

雑感

先日、他分野の研究者に「BOP」という言葉を使ったら、「ボトムとはなんだか見下した感じで嫌だね」といきなり言われてぎょっとした。いったん日本の主要メディアでボトムとなってしまうと、その伝播力たるやすさまじ、だ。この手の反応(bottomという言葉への違和感)は英語圏ではすでに過ぎ去り、"base" of the pyramidという言葉へ転換することで解消したと思っていただけに驚いた。

前のエントリーでいくつか記事を紹介したが、上の会話の数日後、日経のメディアが総じて判を押したように「BOP」を「ボトム・オブ・ピラミッド」と表記していることに気付いた。中には加えて「経済ピラミッドの底辺」という注釈もある。語感がどうも悪い。ボトム、底辺。。。東洋経済は現在英語圏で定番化している「ベース・オブ・ピラミッド」を用いている。 槌屋さんが出ていらしたNHKの番組でもフリップには「ボトム」と表記されていて、アナウンサーは「ボトムオブザピラミッド、あ、いえ、ベースとも言いますが、、」と言いよどんでいた。

たしかに、象徴的著作であるプラハラッドのネクストマーケット発刊当時はBottomという言葉を用いていた。だが最近の様々な記事・論文に接している頭の中では完全に「at the base of the pyramid」という語法が頭に刷り込まれているので、いまさらボトムと言われると妙に古めかしい感じがする。

そこでgoogleで調べてみた。検索語句 を「"bottom of the pyramid"+business」とすると、検索結果は16万件、「"base of the pyramid"+business」に変えて検索すると223万件。(+business を入れたのは、考古学などの検索結果を排除するため。もっともすべて排除できないが。)

要は、実際の用法の大勢はbaseに移っていると思われる。特に、研究者や大学の世界では死語になっているという認識だ。たしかに英語版のWikipediaではbottom of the pyramidの項の中で「しばしばbase--ともreferされる」、と書かれているが、今では「 かつてはbottomと言われた、、、」が正確だろう。 プラハラッドと並ぶこの分野の立役者であるコーネル大ビジネススクールのStuart Hart教授はbottomという言葉への違和感から、すでに2002年の著作でbaseという言葉を用いている。BOP Protocolも最初から"base"だ。やはり英語圏の語感としても、bottomというのはあまり印象が良くないと皆感じているのだろう。日本語では「ベース・オブ・ピラミッド:経済ピラミッドにおける基底部分」とするのが適切だと思う。

言葉使いなどどうでもよい、という声もあるだろうが、こうしたちょっとした言葉遣いがこの分野の活動に対する認識や従事する人々の意識に影響することもあろう。日本での関心が高まりつつある今だからこそ、メディアでの言葉づかいは大事だと思う。

日本における関心の高まり

BOPにおけるビジネスへの関心は日本でも高まりを見せている。

今年の年末年始で気がつくだけでも、

1)JICAの全国規模のセミナー開催

2)主要メディアでのBOP・途上国市場に関するカバレッジ
●日経新聞2009年12月1・2日「動き出すBOPビジネス」、
●日経新聞2009年12月18日「激動財務 変わるSRI 利益と社会貢献を両立」
●日経新聞2009年12月22日「経済学教室 途上国ビジネス、企業は具体化急げ」、
●日経新聞2010年1月3日「危機後産業潮流 欧州発新発想 貧困国で足場づくり」、1月4日「経済学教室 市場いかし再生の道拓け」
●日経ビジネス2009年12月21-28号「BRICsではもう遅い 新・新興40億人市場はこう攻める」
●東洋経済2010年1月9日号「アフリカの衝撃」

3)日本総研 槌屋詩野氏による「BOP層向けビジネス・製品開発ラウンドテーブル」の開催とBOPイノベーションラボの立ち上げ (NHKにも出てらっしゃいましたね。)

などがある。

さらに多くの企業が関心を持ってくると予想される。

2010年1月16日土曜日

JICA、BOP向けビジネスの支援に1社最大5000万円を支給

BOP市場向け事業を積極的に支援する姿勢が鮮明なJICA。本年3月から立ち上がるとのこと。
最高1社あたり5000万円が「支給」されるということだが、これは返済義務のない補助金ということであろうか。案件の属性ごとに補助金、融資、投資を組み合わせる柔軟なスキームがあると適切と思われる。いずれにせよ日本も、(支援体制に関しては)ぐっと前進してきた。JICAのセミナーに200名出席されたということも聞き及んでおり、ますます企業側の関心を引く契機となるだろう。

しかし、最終的に意志決定して動くのはあくまで投資決定者としての企業である。そこに自社事業としてBOP市場でのビジネスがどのような複数の経路をたどって自社の企業価値につながるのか、という個々の企業独自の包括的認識が必要になる。

http://www.jica.go.jp/announce/research_bop/pdf/20100806_01.pdf

バングラデシュにおける水資源開発の経緯とその将来課題


バングラデシュ水資源開発局の前チーフエンジニアであるSaeedur Rahman氏は、自身が取り組んできた堤防建設 (embanking) によるFCD (flood control and drainage 洪水コントロールと排水), FCDI (flood control, drainage, and irrigation 洪水コントロール、排水、灌漑) プロジェクトに関し、率直にその功罪を論じ、将来の方向性を示している。

これまで、バングラデシュにおいては1959年設立の東パキスタン水資源電力開発機構の時代から現在に至るまで、700あまりのプロジェクトに$3Bを投じ、堤防建設、付属構造物、蛇行河川のショートカット、灌漑用運河の建設などを行ってきた。こうした活動には以下のようなメリットが想定されていた。

<堤防建設のメリット(政府や開発局が公に主張する堤防建設の必要性)>
1. 洪水にさらされない農地面積の拡大
2. 人命、家畜、集落、工業、社会インフラの安全性向上
3. 地理的到達可能度の拡大
4. 作物の多期作化
5. 作物収量の増加
6. 排水機能の改善 
7. 魚類養殖の拡大
8. 洪水や高潮の危険性減少

1~8⇒総じて、毎年760万トン農作物の収穫増加をもたらしている。だが、堤防建設の成果を農産物収量の増加だけで測るならば、その経済的リターンはほぼゼロに近い。

つまり、それ以外のメリットも評価する必要がある。それらは特に堤防が河川沿いに道路というインフラを提供することを通じて得られるメリットである。すなわち、

9. 小規模な商取引の促進
10.生態系の定性的変化
11.コミュニティ内、コミュニティ間の移動の便が良くなる
12.地域コミュニティが国家レベルのプログラムとの結びつきを強くする(雇用や事業機会)
13.公衆衛生、教育、食糧確保など様々なセクターでのインフラ整備が促進される
というものである。

だが、堤防周辺のコミュニティに住む人々にとって、堤防建設は負の効果もあることを看過してはいないか。それらは次のようなものである。

<堤防建設のデメリット>
1.河川への容易な排水を妨げる
2.堤防外の土壌水分の減少
3.土壌内水分の水質悪化
4.冠水生育環境の消滅
5.水利用を巡る関係性、秩序の激変
6.堤防外での農薬流出の可能性増大
7.航海の自由度が制約される
8.堤防外の沈泥の増加(定期的な洪水がきれいに洗い流してくれなくなる)
9.洪水の重篤さ増大(堤防が持ちこたえられずに生じる洪水は、堤防がない場合の洪水よりも極めて激しいものになる)
10.土地の侵食
11.水質低下に起因する病気の増加
である。

結論としてRahman氏は、今後の人口増加に伴って必要とされる向こう20年間での収量増加目標40%は、年々2%づつ生産量を増やしていけば賄えるとし、今後の水資源開発は単に農業生産の増大といった経済的メリットに偏ることなく、生態系を包括的に勘案したものであるべきで、これまでの政府機関のミッションの定義も変えていくべきだと主張している。

本記事:

バングラデシュの堤防建設に関する歴史と現状の概要(Banglapedia):

バングラデシュの携帯市場でBhartiはどう出るのか?(続報)

本記事(Economic Times India) は"Bangla market may not prove easy for Bharti"と題して、Waridを買収したインド最大の携帯キャリアBhartiのバングラデシュ事業はそう簡単なものではない、と論じている。

<バングラデシュの携帯市場(全6キャリア)シェア順位>
1. Grameenphone (majority owned by Telenor, a Norwegian carrier) 23M users
2. Banglalink (An Egyptian business group Orascom-owned) 12M users
3. Aktel (Co-owned by NTT Docomo and Axiata, a Malaysian carrier) over 8M users
4. Warid (now Bharti owned) 2.7M users
5. CityCell (owned by Singtel, a Singaporean carrier, and Pacific Group, a Bangladeshi business group) 2M users
6. Teletalk (state-run) 1M users

市場首位のグラミンフォンは、他の5社すべての中継基地を合わせた数の倍以上を既に構築しており、カバレッジの面で圧倒的存在である。すでにバングラデシュ株式市場に上場しており、財務状況も6社中最も良い。

同国の携帯市場関係者の中には、Bharti (Warid) がさらなる通話料引き下げ競争を始め、業界全体としてネットワーク整備の原資が価格競争で吸収されてしまうことを危惧する声がある。

シャプラニールのフェアトレード:クラフトリンク

本フォーラムでも既にいくつかのフェアトレード事業を報告してきたが、「取り残された人々」への自立支援をするNPOシャプラニールのフェアトレード事業は、1974年に始まっている点で日本でも最も歴史のある事業の一つと思われる。クラフトリンクの公開情報によれば、2008年度の収支は収入が約7649万円、支出が約7029万円で620万円が利益(8.1%)と、数字で見る限りは持続可能な事業として成立していると思われる。背景には様々な苦労があるのだろうけれど。

クラフトリンク秋冬フェアトレードコレクション


2010年1月14日木曜日

BhartiによるWarid買収(続報)

他のメディアによれば、実際の投資額は$300Mに加えてさらに$700M、合計$1000Mに上るという。うち$300Mはインフラ整備の設備投資に充てられ、$700MはWaridの負債返済に充当されるという。
さらにこの記事では、バングラデシュにおける通信規制の頻繁な変更や、進行する通信料金の値下げ競争が事業の障害になることが懸念されると指摘。

2010年1月13日水曜日

インド最大の携帯キャリアBharti Airtelがバングラデシュ4位(シェア5%)のWarid Telecomを買収

買収金額$300M、所有割合は70%になる。Bharti Airtelが経営権を握る。すでに今月初めに、バングラデッシュ政府当局は本件を承認した。
今回の買収の背景には、インドにおける価格競争の激化を背景に、Airtelが事業の地理的多角化を図り、今後成長が見込める収益源を確保する狙いがあるようだ。
しかしながら、すでにバングラデシュにおいても通話料の引き下げ競争は始まっている。インド企業のバングラデシュ進出はこれが初。