2010年1月16日土曜日

バングラデシュにおける水資源開発の経緯とその将来課題


バングラデシュ水資源開発局の前チーフエンジニアであるSaeedur Rahman氏は、自身が取り組んできた堤防建設 (embanking) によるFCD (flood control and drainage 洪水コントロールと排水), FCDI (flood control, drainage, and irrigation 洪水コントロール、排水、灌漑) プロジェクトに関し、率直にその功罪を論じ、将来の方向性を示している。

これまで、バングラデシュにおいては1959年設立の東パキスタン水資源電力開発機構の時代から現在に至るまで、700あまりのプロジェクトに$3Bを投じ、堤防建設、付属構造物、蛇行河川のショートカット、灌漑用運河の建設などを行ってきた。こうした活動には以下のようなメリットが想定されていた。

<堤防建設のメリット(政府や開発局が公に主張する堤防建設の必要性)>
1. 洪水にさらされない農地面積の拡大
2. 人命、家畜、集落、工業、社会インフラの安全性向上
3. 地理的到達可能度の拡大
4. 作物の多期作化
5. 作物収量の増加
6. 排水機能の改善 
7. 魚類養殖の拡大
8. 洪水や高潮の危険性減少

1~8⇒総じて、毎年760万トン農作物の収穫増加をもたらしている。だが、堤防建設の成果を農産物収量の増加だけで測るならば、その経済的リターンはほぼゼロに近い。

つまり、それ以外のメリットも評価する必要がある。それらは特に堤防が河川沿いに道路というインフラを提供することを通じて得られるメリットである。すなわち、

9. 小規模な商取引の促進
10.生態系の定性的変化
11.コミュニティ内、コミュニティ間の移動の便が良くなる
12.地域コミュニティが国家レベルのプログラムとの結びつきを強くする(雇用や事業機会)
13.公衆衛生、教育、食糧確保など様々なセクターでのインフラ整備が促進される
というものである。

だが、堤防周辺のコミュニティに住む人々にとって、堤防建設は負の効果もあることを看過してはいないか。それらは次のようなものである。

<堤防建設のデメリット>
1.河川への容易な排水を妨げる
2.堤防外の土壌水分の減少
3.土壌内水分の水質悪化
4.冠水生育環境の消滅
5.水利用を巡る関係性、秩序の激変
6.堤防外での農薬流出の可能性増大
7.航海の自由度が制約される
8.堤防外の沈泥の増加(定期的な洪水がきれいに洗い流してくれなくなる)
9.洪水の重篤さ増大(堤防が持ちこたえられずに生じる洪水は、堤防がない場合の洪水よりも極めて激しいものになる)
10.土地の侵食
11.水質低下に起因する病気の増加
である。

結論としてRahman氏は、今後の人口増加に伴って必要とされる向こう20年間での収量増加目標40%は、年々2%づつ生産量を増やしていけば賄えるとし、今後の水資源開発は単に農業生産の増大といった経済的メリットに偏ることなく、生態系を包括的に勘案したものであるべきで、これまでの政府機関のミッションの定義も変えていくべきだと主張している。

本記事:

バングラデシュの堤防建設に関する歴史と現状の概要(Banglapedia):

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