2010年3月3日水曜日

佐藤寛+アジア経済研究所開発スクール編 「テキスト社会開発」

他社で出版した研究成果 テキスト:社会開発

企業の視点からBOPにおける事業を考える際にも、必読の基本図書である。

BOP層の社会経済は、これまで基本的に援助によって維持・改善を遂げてきた。歴史的にはどのような考え方に基づいて支援されてきたのか。

「第二次大戦が終わり、多くの旧植民地が独立した1960年代以降30年以上」(同p.1)、貧困問題は国家としての資金、能力、技術の「不足の問題」(同p.3)として捉えられ、その「補填」が外部者主導で行なわれる「経済開発」というスキームが主流だった。

一方、こうしたトップダウンの経済開発は、「当事者の主体性を損ない、援助依存への受動的な姿勢を生む結果、開発・発展過程が持続的なものとなりにくい」(同p.3)と指摘されるようになった。

そこで、重視されるようになったのが「社会開発」という参加型開発のコンセプトである。その積極的意義としては、いわば経済開発によって生じてしまった貧富の格差拡大などのひずみを是正することが期待されているという(同p.3)。より消極的・現実的意義としては、経済開発によって促進される市場経済化を維持しつつも、その代償を最小化する役割が期待される。

本書では、上記のように開発援助とその背景思想の変遷を説くところから始まり、より具体的な援助領域、援助手法について、検討が加えられている(教育とNGO、健康、水問題、マイクロファイナンス、農村開発、住民組織化、外部者介入の問題、社会調査、人権等)。

そして重要なこととして、「外部者として関わる」ことの意味とわきまえるべき原則を指摘している。

BOPでビジネスを展開する際の特徴の一つは、企業から見れば「非伝統的な」利害関係者との連携である。現地の開発援助に長年携わってきたNGO、政府機関、国際機関等、「通常の」ビジネスモデルには登場しないプレーヤーの役割が飛躍的に大きくなる。そこで学ばねばならないのが「開発」、「開発援助」領域のナレッジと価値観だとすれば、その基本書として、本書は重要な役割を果たすだろう。

JETROホームページでの同書紹介

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