2010年5月31日月曜日

バングラデシュが次回G8で「食糧安保」のモデル国に!?

International Food Policy Research Institute (IFPRI) のdirector generalであるDr. Fanによれば、バングラデシュはカナダで行われる次回G8サミット(6月25-26日、構成国はUnited States, United Kingdom, Canada, France, Germany, Italy, Japan, Russia)で標記のようにモデル国として紹介されるという。

Dr. Fan氏が挙げたモデルとなった理由は、1)これまでの食糧増産の実績、2)バングラデシュ政府による食糧安保への強いコミットメント、そして 3)国家食糧政策の行動計画を策定したこと、の3点だという。

「同国はこれまでMDGsの達成に懸命に努力してきた。例えば貧困は、地球上で貧困状態にある人の数は10億人を超えて上昇しているなか、同国では1990年に全国民の57%であったものが2005年には40%に減少した。同時に年6%の経済成長をなしとげた。」
「食糧安保の問題は、同国の課題として重要な地位を占め続けるだろう。IFPRIの飢餓指数によれば、1990年以来、バングラデシュの食糧安保はextremely alarmingからan alarming level of hungerへ改善した。栄養不良者の比率も、36%から2006年には26%へ減少した。」
「だが、人口は継続的に増大しており、耕作地はサイクロンの頻発と不定期化で浸食され続けている。こうした事情は、同国の食糧安保の維持に大きな課題となる。」
「こうした多大な成果の一方で、依然として極度の貧困にある人の数は5000万人にのぼり、3600万人は慢性的飢餓と栄養不全の状態にある。同国児童の40%以上が健康に必要な栄養が欠如している。」
「公共投資は、経済成長と食糧安保、貧困と飢餓の解消にとって政府が取り得る最も直接的で効果的な方策である。政府としては正しい分析とそれを遂行するための能力強化が必要だ。同国に人材はいるのだから、要は適切なインセンティブと適正な環境が不可欠。」

http://www.thedailystar.net/newDesign/news-details.php?nid=140780

中国がバングラデシュの肥料工場建設に$560Mの譲許的借款

バングラデシュの求めに応じたもの、と報じられている。
バングラデシュでは、年間300万トンの尿素を消費しているが、うち180万トンは国内生産でまかなっているが、120万トンは輸入に依存している。今回の工場は国営Bangladesh Chemical Industries Corporation (BCIC)が建設するもので、日産1,750トン(年260日稼働として年産45.5万トン)の能力を持つという。2014年末までに完成予定。

AAPBS Mid-Year Conference

AAPBS*の半期会合でBOPでの事業戦略に関し、研究と教育の両面からいかにアプローチすべきか、という論題で発表する機会があった(フィリピン・マニラ)。発表のタイトルは“Strategic Management at the Base of the Economic Pyramid:The Pursuit of Sustainable Competitive Advantage Through Integrating Social Impacts Into the Equation”

内容としては
1.学術研究の視点から、既存の戦略・国際経営領域の理論の応用可能性の確認
2.企業にとってBOPに取り組む意味・動機は何か
3.成功のための要素
4.教育プログラム(KBSでの新科目)事例
など。

その後の質疑では質問が沢山出たが、印象に残ったものは、あるメンバー国からの「なぜ、まず自国の中で貧困解消のための事業に取り組まないのですか?」というもの。少々返答に窮した。「たしかに日本にも『貧困』は存在します。しかし、相対的貧困と絶対的貧困は区別して考える必要があり、例えばBOPでの年収と日本の生活保護世帯の受給額(先のエントリーおよび下記注**参照)を比べれば、1研究者としての関心はより経済力・生活力へのニーズの高いBOPにあります」、と答えるしかなかった。

質問の背景には、自らの国の問題は自ら解決したい(すべき?)という思いがあるのかもしれない。また、自国経済発展のためには、現在成長中の産業セクターへの傾斜投資が生じて当然であり、国レベルの資源配分という視点からは、BOPにおける事業と経済力の発展は優先順位があまり高くないのかもしれない。自国の貧困問題が他国の者によって議論されることへの複雑な心境もあるのかもしれない。微妙だが重要な感覚の違いを感じた会合だった。日々学習するばかりである。

パキスタンのビジネススクールから派遣されてきた教員お二人(financeとlawの研究者)と知り合ったのは収穫だった。ちなみにAAPBSの年次総会は、今年10月慶應義塾大学(ビジネススクール)主催で開催される。


*AAPBS(Association of Asia-Pacific Business Schools)とはアジア太平洋のビジネススクール連盟。オーストラリア16校、中国36校、香港地区6校、インドネシア2校、日本2校、韓国7校、マレーシア1校、ニュージーランド6校、フィリピン1校、シンガポール2校、台湾3校、タイ5校、ベトナム1校の計88校である。これに認証団体としてAACSBとEFMDの代表が加わり、90組織からなる連盟。

**例えばBOPの中央値であるBOP1500ゾーンの人々の暮らしぶりは、購買力平価で換算すると、2005年の日本の物価水準の下で、1人当たり年間21万円、月17,600円、1日当たり579円、4人家族では年間84万円、月7万円で生活する感覚である。ちなみに日本の生活保護支給額は東京都在住31才独身世帯で月137,400円、4人家族で月344,990円(2005年実績)。

2010年5月10日月曜日

アフリカの「チーター世代」

本日のNHKクローズアップ現代はその特集だった。ガーナの経済学者George B.N. Ayittey の著作:“Africa Unchained: The Blueprint for Africa's Future” (2004)で、「欧米で教育を受け母国へ帰ったアフリカ人若年世代」を著者がこう称した。

今夜の番組で紹介されていた事例の一つは、ナイジェリアの農業だった。自国生産の果物が大量に生産されているにもかかわらず、保存の技術・輸送インフラがないために市場に恵まれず、腐敗・廃棄を余儀なくされている。結果、輸入された生鮮品や缶詰などが自国内市場を席巻する。この解消には、果物生産の現地にジャムなどの加工工場を興し、保存可能にして販売する事業が計画されているという。担い手はハーバードビジネススクール出身のナイジェリア人。米国の大手コンサルティング会社で10年勤めた後帰国。30代。

Dr. Ayitteyが2007年のコラムで指摘するように、チーター世代は、"away from the foreign aid model and focused instead on African risk takers, entrepreneurs, and those crafting their own indigenous solutions to Africa’s innumerable problems," つまり、アフリカの諸問題(とくに貧困)を解決するために、外国からの援助や腐敗する自国政府に依存することなく、自らがリスクテイクして母国で事業を興し、経済的成功を通じて利益と雇用の創出を促し、その過程と結果から貧困を解消していく、という発想。

<コメント>
彼らの発想は、まさに市場原理や営利の経済活動を通じて貧困を解消するということであり、本フォーラムの研究する命題そのものでもある。本研究室では6-7月のフィールド調査でタンザニアとナイジェリアに赴く予定をしており、こういった空気にも触れて来たい。

韓国サムスン電子の組織的対応、米IBMの社員教育

2010年5月10日日経新聞社説によれば、

韓国のサムスン電子は入社3年目以上の社員200-300名を毎年「地域専門家」として選抜し、世界各国に派遣している。派遣先国には1年間滞在し、事業開拓など仕事は課さず、ひたすらその土地の言語・習慣・文化を身につけ、その国を深く知ることだけに努めさせる。

また、米IBMは、異なる機能分野で働き国籍も異なる社員チームを編成し、アフリカなどに一カ月派遣、現地NPOに所属して環境や教育問題に取り組ませているという。

<コメント>
 既にISLによる外部研修を活用して社員に「BOP」を体験させるリコーや大手商社の活動を紹介した
 サムスンは、研修から一歩進んで市場開拓活動の一環として全社規模で組織的に各市場へアプローチしている。「BOP」を持つ国へ派遣されれば、これはHartの言う、「土着化」のコンセプトそのものだ。IBMやリコーの例は研修の域に収まっているが、「BOP」への感度を高める上では非常に効果的と考えられる。
 日本企業でもサムスン電子並みの真剣度で「BOP」への取り組みがすでになされていることを期待するが、その話はまだほとんど伝わってこない。やはり当然ながら、日本企業の目は需要が顕在化しているボリュームゾーンに釘付けだ。

2010年5月9日日曜日

Access to Energy(日本語字幕版)

「エネルギーへのアクセスは、『BOP』での生活にとって単に電灯があるかないかという問題をはるかに超える重大性を持っている。企業は社会セクターと協働することにより、利益を上げながらこの問題の解決に重要な役割を果たせる」、というテーマで制作されたビデオ。すでに紹介済みだが、本フォーラムの主旨を体現するメッセージを含む内容なので、このたび翻訳と字幕処理を施した↓



YoutubeへのダイレクトURL:
http://www.youtube.com/watch?v=uKJD10RIB8s

2010年5月3日月曜日

プレゼンスを増す営利のソーラーランタン事業

1. D.light
「社会的ミッションを強く持った営利企業 a for-profit business with a strong social mission」と自らを称する同社は、「社会的企業初の上場」を目指す。
今年3月に新製品Kiranを発表。価格は$10で、世界で最も安く性能のよい(コストパフォーマンス)ソーラーランタンを目指したという。同社は2006年のStanford design competitionに端を発し、スタンフォード大学のMBA2名で創業。2010年に売り上げ累計台数が「数10万台」に達し、実質100万人の生活に明かりを提供したと発表。2009 SVN Innovation Awardを受賞。
kiran girls.jpg
2008年6月の報道(企業概要、創業以来の経緯)
2008年11月の報道(VCから$5.5MシリーズA調達)
2009年10月の記事($10のKiran発表に際して創業者のコメント)
2010年4月の記事(なぜ営利企業体として社会的価値をめざすのか)
同社への寄付金の受け皿になっているBeyond Solarのホームページ

<コメント>
「投資家(VC)の顔が見える営利事業」という厳格な経済合理性の下で、社会的ミッションの達成を目指すハイブリッド型の営利企業である。本フォーラムの目指す社会価値・経済価値の両立を地で行く企業だ。利益創出の目的を「持続性のみならず、拡張性を確保するため」との説明も理解しやすい。ここでの「拡張性」はむろん事業利益の再投資による有機的事業成長を意味するものだと思うが、拡張性は外部資本の導入力にも左右される。事業(利益)が成長していればこそ、外部投資家にとって魅力が増し、「増資」によるさらなる拡張性の追求も可能になる。「BOP」における事業の成功には、やはり「資金調達スキーム」のデザインが必要不可欠であり、そこで社会的ファンドと純粋なリスクマネーのバランスがどのように決するかは本フォーラムの重要な検討課題の1つである。

「世界の無電化地域16億人に”あかり”を贈る」
営利事業と慈善事業の組み合わせ事例

インド・米国の合弁企業。製品名MIGHTYLIGHT。一つ5役の多機能。スタンフォード大学が母体。

4. Selco India (設立1995年)
ソーラーランタンのみならず、より大型の、事業・個人用ソーラーシステムも製造販売。創設以来10万基を超えるシステムを販売。

2009年10月に既報の通り。