2010年7月14日水曜日

「グラミンユニクロ」 2010年10月に設立

7月14日 産経新聞

1.設立:2010年10月(予定) 資本金10万ドル(約885万円)(9月をめどに資本金5400万円でソーシャルビジネスを立ち上げる現地子会社を設立し、そこから投資する。)
2.資本構成:グラミン銀行1%($1000)、ファーストリテイリング99%($99,000)
3.事業内容:現地の貧困層向けの安価な衣料品を製造・販売する。女性用の下着や学校の制服などを製造、グラミン銀行のMFを利用する農村部の女性を販売員として活用する。売価は平均1ドルとのこと。
4.雇用規模:初年度250名、3年後に1500~2000名を目指すという。大半は販売にあたる農村部の女性という。


<コメント>
 ファストリといえば、企業価値増大へ向けたアグレッシブな成長志向が大変強い、上場企業のお手本のような存在だけに、「株主配当を一切行わない」というグラミン流「ソーシャルビジネス」を行うと聞いた際、率直な感想として多少の唐突感を禁じ得なかった。だが本件の投資規模から考えて、本業を活かした純粋な社会貢献活動(なおかつ副次的経済効果は大変大きい)ととらえれば、その意味をすんなりと理解できた。

 そもそもこのグラミンユニクロは、「株主に配当しない」ソーシャルビジネスという時点で、本フォーラムの対象から厳密には外れるが、今回の事象は1)低労賃を活用した世界的生産拠点としての事業(先に発表された$80M規模の香港企業との合弁)と、2)BOP2.0型の派生事業(本件。配当は行わない)を同じ国の同じ業界で同時進行させている点で、興味深い考察対象になる。

 報道によれば、この事業自体から得た収益は「雇用拡大」に再投資されるという(「ソーシャルビジネス」なので必然)。そもそも売値1ドルであれば、本体への直接的利益貢献はたとえあったとしても微々たるものであり、それが狙いであるはずがない。すでにいわゆる「チャイナプラスワン」として、バングラデシュを第二の世界市場向け生産拠点と定めたファストリにとって、この小規模社会貢献事業には以下のような役割もしくは波及効果があると思われる。

1)社会価値創出の肯定的企業イメージ(対資本市場・世界製品市場):
 数年後に雇用創出数が2000名の規模ともなれば、住友化学の合弁事業(タンザニア)による4000名に匹敵しうる。貧困層が「寒さをしのげる」(ユヌス氏)という製品そのものによる貢献と、事業プロセスを通じた雇用(所得)の創出は、BOPにおける本業を通じた問題解決の望ましい姿に近づく。もっとも、この事業自体は、利益をたとえ生んでも配当をしない「ソーシャルビジネス」であるがゆえに、本フォーラムで標榜する営利と社会性の追求という範疇には入らない。とはいえ、「本業を通じた貧困解消」がいかなる規模にせよ達成される点において、同社の企業イメージを向上させるだろう。

2)同国における企業市民としての資格(対バングラデシュ国内世論):
 本事業は、ファストリ全社の投資規模(342億7300万円、2009年度投資活動によるキャッシュフロー実績)や、バングラデシュに設立済みの縫製事業への投資額(7億6千万円)からすれば、極めて少額の資本金(885万円)である。賃金紛争が発生しがちな同国内で大規模生産拠点(本件とは別)を運営する上での、リスク軽減費用として理解できる。

3)低所得地域における地産地消モデルの実験・学習機会:
 BOP層市場の莫大な潜在市場規模と成長性を考えれば、超低コスト生産と販売チャネル構築の学習機会(および他国の低所得セグメントへの応用、たとえばインド農村部)

4)今後急成長が見込まれる同国農村市場への先行的ブランド浸透(および他のアジア市場への波及、たとえばインド市場)

 ちなみにグラミンダノンモデルを参考にすれば、農村部と首都ダッカで差別価格(農村では安く、首都では高めに)を実施し、早期に採算に乗せることも試行対象になるかもしれない。

 先のエントリーで、マイクロファイナンスを活用した貧困解消に関し、単にMFによって資金融通をつけるだけでなく、資金活用の対象となる「しごと」をセットで導入し「資本蓄積」を進めることが重要と書いた。そしてその方法論の一つとして「農村部への大量生産工場設置とそこから生まれる製品の販売チャネル構築をワンセットで行うことだ。この場合、工場設置という大規模投資は多国籍企業や地元企業が行い、企業側に不足している販売チャネルはMFによって小口仕入れをする販売員を募って育成する。雇用は工場勤務と販売員双方で生まれる。グラミンダノンはこれに近い。」と述べた。ユニクロの今回の事業もこのモデルに極めて近い。ダノンとの違いは、同国内でユニクロが大規模営利事業を他に営んでいることだ。

 総じて、この事業をファストリのバングラデシュにおける非営利の社会貢献事業(日本語で言うところの「CSR」)と考えれば、グラミン流「ソーシャルビジネス」の形式を選択することは、企業広報的観点からは、かえってこれ以上ない効果的な打ち手と思われる。

 なお、これまでに設立された(もしくは設立が決まった)グラミン銀行と外資多国籍企業の合弁事業の出資比率は、以下の通り。

1)グラミンフォン(Telenor 当初62%、上場後55.8%、グラミンテレコム 当初38%、上場後34.2%)
2)グラミンダノン(Danone 50%、グラミン銀行 50%)
3)グラミン ヴェオリア ウォーター (Veolia Water AMI 50%, グラミンヘルスケア50%)
4)グラミンユニクロ(ファーストリテイリング現地子会社 99%、グラミン銀行関連企業1%)

 本件においてグラミン銀行の出資比率が突出して低いことの意味については、今後の本事業の展開を学びながら別途考察する必要があるだろう。他のケースと比較して、両者の交渉力のバランスに何らかの特徴があったのかもしれない。

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