2011年4月20日水曜日

東日本大震災と包括的ビジネス(BOPビジネス)

今回の未曾有の震災は、現在も多種多様で深刻な課題を企業社会に突き付けている。先進国では当たり前だった与件が深く変質してしまった今、企業はそのビジネスや業界の特性に応じて、単にリスクや危機管理体制を見直すにとどまらない戦略再構築を迫られるだろう。例えば、集権的に制御されたエネルギー網や集中制御型ビジネスプロセスそのものを見直す必要が生じている。

本エントリーでは、大震災が企業に突き付けた問題と包括的(BOP)ビジネスへの取り組みがオーバーラップする部分、さらには企業の取り組みとして相乗効果が期待できる部分を議論したい。

実際のところ、東電による計画停電中だった我が家で最も活躍したのは、他ならぬタンザニアで購入してきたBOP向けのソーラーランタンだった。またパナソニックグループの三洋電機は現在アフリカで拡販中の自社製ソーラーランタンを4000台被災地へ贈り、またパナソニックもBOP無電化地域向け設備を被災地へ提供した。考えるきっかけはこうした単純な事実である。

考えてみれば、包括的ビジネスの舞台であるBOPにおいては、BHN(Basic Human Needs)の未充足が大きな問題である。それはMDGsとして明示的に認識されてもいる、それらの問題解消が包括的ビジネスの大きな目的の一つである。一方今回の日本の震災地でも、先進国では空気のように当たり前の存在だった「エネルギーへのアクセス(Access to energy)」が、当たり前でなくなった
。その意味において、BOPと同様の事態が今現在の日本で発生している(無論、経済力が圧倒的に大きな日本において、地理的にごく部分的な範囲でエネルギー網が破壊されても、その修復は包括的市場に比べればはるかに速いスピードで改善が図られる事は言うまでもないが。)

すなわち、

1)今回の震災を機に、日本の企業社会は、「エネルギーは無限かつ安定的に供給されるものだ」という意識・無意識の与件が盲目的神話にすぎなかったと体験を持って自覚した。⇒分散自立型へのシフト(転換ではない。製品戦略、オペレーション体制の抜本的再構築へ)

2)日本企業・国民は、東北被災地での体験(社会資本の全喪失、
停電は400万世帯)や、それに比べれば影響はごく微小ながら、5日間で東電管内約1,000万世帯で生じた計画停電を通じ、社会資本がほんの一部でも欠如すると、それを当然の与件として成立していた社会ではいかに重大な問題が生じるかを、今更ながら体験を伴って思い知らされた。

3)包括的ビジネスは元来、集中制御型のエネルギーアクセス網のない地域でいかにBHNを充足し、かつ利益を確保するかを狙いとしており、日本の被災地の現状改善と包括的ビジネスの対象コミュニティはある意味で似通ったニーズを持っている。⇒短期的類似性、ならびに補助金等への依存だけでなく、営利ビジネスを通じた問題解決(例えば雇用創出)の重要性も共通。

4)また、日本の被災地におけるBHNの改善は一定期間(5年位?)で終了するが、その後も「災害によるBHN喪失、事業インフラ喪失への備え、安定的な分散エネルギーの確保」へむけて社会構造が変わり、ビジネスもそれを前提に構築されるる可能性が高い。⇒長期的・構造的類似性

5)上記のことからBOPへ向けた製品・サービスの開発と、今後の日本社会のニーズとは相乗効果が高まっていく可能性がある。(これをリバースイノベーションというか否かは微妙だが)

6)例えば
分散エネルギー分野や防災関連設備・製品では、BOP向け製品との間には相乗効果が多々想定できるだろう(コミュニティ向けレベルと個人向けレベルの双方で)。例えば、個人レベルでは簡易浄水器、浄水剤、簡易ソーラー・水力発電装置(動力源、熱源、照明・携帯電話充電)、簡易衛生・医薬用品、水のない場所での衛生確保用品等)⇒防災備蓄用品・防災システム・分散電源ベースの日常生活という新しい成長産業。コミュニティレベルでも分散エネルギーベースの浄水・揚水機能や電力源等々で新たな市場拡大。

与件が変質したnew normal の下で、包括的ビジネスと復興事業の相乗効果が何かの形で具体化してくることを期待したい。こたびの大震災によって、包括的ビジネスと日本企業の心理的距離は確実に縮まったのではないか。

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