2012年5月23日水曜日

ネスレのアフリカ戦略


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(Nestle南アのウェブサイトから)

「徒歩で、自転車で、タクシーで:ネスレはアフリカで事業拡大(By Foot, by Bike, by Taxi, Nestle Expands in Africa)」と題するこの記事(2011年12月1日)は、先進国や新興国中間層以上向けでは当たり前のモダンチャネル(卸しと量販店からなる流通インフラ)が存在しない領域(すなわち包括的市場もしくは低所得層層市場)での同社の取り組みを紹介している。以下、記事の要点。

■アフリカのチャネル:
アフリカでは都市から離れて暮らす人口も多く、道路自体もあったりなかったりする。一般の多国籍大企業が想定するような供給チャネルは存在しないし、物理的・経済的に構築できない。

■ネスレの「どぶ板営業」部隊:
南アのネスレ販売代理店であるデズモンド・マグワンバン氏は、手持ち金はタクシー代のみ、携帯2台、それに注文票の束を持って営業活動をしている。ヨハネスブルグでも最も治安の悪い地区である。「ここは私の金鉱だ」と同氏。他の通常の営業マンは首都の巨大スーパーの棚をネスレ製品で埋めるべく活動しているが、マグワンバン氏以下80人の営業スタッフは、南ア全土の極小店舗をターゲットにしている。それらの店舗では多くの場合小分けしたネスレ製品(ベビーフード、クリームパウダーなど)が売られている。こうした営業活動により、低所得層でのネスレ製品の認知度と人気は確実に高まっている。

■アフリカ市場の成長性:
ネスレがここまでの努力をするのにはわけがある。市場の成長性である。アフリカ開発銀行によれば、現在のアフリカ大陸人口の61%はいまだ一日当たり2ドル以下で生活する「貧困」状態にあるが、2060年までに、アフリカの中間層(一日当たり所得が4-20ドル、年間1000-5000ドル)は11億人に達し、アフリカ大陸人口の42%を占めると推定される。またIMFの推定によればサブサハラ地域の経済成長は2011年が5.25%、2012年には5.75%と予測され、これは地球全体の年平均成長率4%を上回る。

■他有力企業もアフリカにコミット:
ネスレだけではない。有力食品メーカーは一斉にアフリカ強化に向け動きを速めている。クラフトフーズは、バン部隊を仕立てて、南アの各地方の町の路上小店舗に直接供給するネットワークを構築中である。サムソン電子は太陽光発電で充電される電話を電力供給のままならないケニアやナイジェリアの地域に導入済みだ。コカコーラは小規模店舗への供給のため、アフリカ15か国3200の流通拠点を活用しているという。

■ネスレのアフリカ事業規模:
ネスレは新興国市場(含む包括的市場)からの売上比率が現在の30%から、2020年までには45%に達すると予測している。同社のアフリカでの売上高は、2010年に6.4%増大して33億スイスフラン(約36億ドル、約2,880億円)に達した。一方同期間に同社の世界市場全体の売上成長率は2%だった。世界総売上高(930億CHF)に占めるアフリカの割合は3.5%

■ネスレのアフリカ投資:
過去5年間$850Mを投資し、現地製造、流通網の拡張、現地顧客の好みに合った味の開発を進めてきた。ヨハネスブルグの「どぶ板営業」部隊では、小規模店舗への売上が2011年6月から8月までの2ヶ月で20%増えた。また2011年の1-8月で、南アの小規模店舗でネスレ製品を売る店舗数は2倍に増え、ほぼ4500店に達した。ネスレの南ア販売責任者は現状をして「今の我々は計画の半分に達したところ」と言っている。

■ネスレ製品の販売営業の実態:
どぶ板営業で価格交渉は日常的である。商店主のバルア氏によれば、「ネスレの製品は品質も良いが値段も高い。チコリの根の飲料Ricoffyなどは、値段を下げるとあっという間に売れる」という。他のナイジェリア人の商店主は、ネスレ製品専用の棚を設けている。マグワンバン氏との交渉を通じ、この商店主は$450の注文に対して$30の値引きを獲得した。マグワンバン氏は売上の1%をコミッションとしてネスレから受け取るが、こうした値引きによって「より大きな金額の注文が定期的に取れるよう期待している」と語った。

■製品配送の実態:
こうした小口販売の配送は、そのほとんどが自転車によってなされ、これはネスレのアフリカ全土の配送の30-40%を占めるという。

■アフリカ・インドにおけるネスレの逆境:
ネスレの新興国事業も平坦ではない。ジンバブエのミルク事業では、事業の最低51%を自国の黒人が所有することを求める法律と取り組まねばならず、インドではボトル入り飲料水で競争に敗北し、撤退を余儀なくされた。そして70年代80年代、同社は有名な途上国市場での粉ミルク問題で不買運動を喫する。この経験から、同社は1981年、WHO(世界保健機関)による母乳代替製品の販売に関する規則を世界で初めて採択した企業となった。

■現地店舗の成長:
4年前、ヨハネスブルグのンジョマネ・ドリンクは掘立小屋だった。消費の伸びとともに、同店はマグワンバン氏からベビーフードを月$400仕入れるようになった。その店舗はいまや二部屋のコンクリート製ビルディングになった。

<解釈>
この記事を読むと、なぜ味の素が経営者のトップダウンでアフリカ市場に対してコミットしているかがわかる。サブサハラ・アフリカも、すでに世界企業の主戦場になってきており、そこに早期にコミットしないと、今後の世界市場における競争で不利になるとわかっているからだ。

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