2012年8月20日月曜日

「グローバル人材」なるもの

 日本では今、「グローバル人材育成」が花盛りだ。企業戦略の視点で今の現象を眺めていると、日本の伝統的大企業に求められているのは、単に個人のレベルで英語や中国語、特定国の事情に通暁している人材を育成することだけではなかろう、と感じる。

 企業戦略の視点からは、「地球規模市場の視点に立って、いかにすれば自社固有の資源をベースに経済的価値を最大化できるのか、新たな事業機会は何なのかを洞察する能力・時代感覚・識見・感覚」が肝要だろう。これが現時点での、企業戦略の観点から求められる「グローバル人材」の真価と思われる。「現状打破のリスクを恐れない、地球規模の戦略感覚を持ったリーダー」が求められている。

 その上で、各地域別・機能別の分業体制が敷かれ、それに応じた特殊能力の育成が必要になるのは言うまでもない。

 当研究室がアフリカへの調査を複数回行う(今後も)のは、何もアフリカが有望市場だからという単純な理由だけではない。より上位の文脈として、地球規模で戦略を発想する際に必要不可欠な情報量が、圧倒的に不足しているのがアフリカ諸国だ、という自覚があるからだ。多くの経営幹部との対話を通じ、地球規模で事業機会を発掘し、意思決定の俎上に載せようという際に、同地域に関する知見がいまだ十分に集積されていないケース(研究者としての私自身を含む)が非常に多いと感ずるからだ。(もちろん先進的例外は日本にも少なからずあるが。)

 であるから、ある企業がアフリカへの知見を深めたとしても、経営意思決定の結果としては、その企業にとってはアフリカの特定の国々は戦略上の優先順位が低いと判断され、「現時点では関与せず」という結論も当然あり得る。しかしそれが全地球的に複数の事業機会を十分に精査した結果の合理的判断であれば、それで全く問題はない。

 問題なのは、情報不足故か個人的好み故か、特定の地域(例えばアフリカのサブサハラ諸国)を無意識に最初からオミットしてしまい、自社の「潜在的」活動領域を自ら狭め、事業展開の可否判断の俎上にすら乗せないことである。


0 件のコメント:

コメントを投稿